第4章「会計と金融」をもう少し深く学ぶ
―会社の将来を、数字で見通すことができるか―

いま会社にいくらお金があるか。そして、数か月後には、いくら残っているか。社長は、その見通しを、根拠をもって説明できるでしょうか。

第4章の冒頭は、将来の通帳残高を合理的に予測できるかという問いを、社長に必要な能力として提示しています。経営計画や資金管理の部分には、細かな表や計算が登場します。しかし、その背景にある問題意識は明快です。会社が利益を生み、必要な支払いを続けられるかを把握しなければ、責任ある経営判断はできないということです。

第1章では会社の方向性を、第2章では人の力を生かす仕組みを、第3章では事業を続けるための備えを考えました。第4章は、それらの判断を、利益、資金、企業価値という数字に結びつけて考える章です。

会計処理や資料の作成は、経理担当者や専門家の力を借りることができます。しかし、新しい設備を買う、人を増やす、借入れをするという判断は、社長に残ります。その判断が会社のお金にどう影響するかを、理解しないまま進めることはできません。

ここでは、財務指標の計算式、経営計画や資金繰り表の作成手順などは説明しません。それらは公式テキストで学んでください。このページでは、「なぜ、会社を経営するために、数字で現状を捉え、将来を見通す必要があるのか」という問いから、第4章を読むための「見取り図」を描いてみたいと思います。

会計は「終わったことの報告」だけではない

決算書は、税金を計算したり、銀行へ提出したりするためのものだと考えられることがあります。しかし、それだけでは、経営に役立つ情報を十分に使っているとはいえません。

損益計算書は一定期間の経営成績を、貸借対照表はある時点の財政状態を示します。公式テキストは、貸借対照表を通じて、どこから資金を調達し、何に使っているかを捉えられることを説明しています。これらを合わせて読むと、単に利益が出たかどうかだけでなく、どのような資源と資金によって事業が成り立っているかが見えてきます。

こうした会計情報を、経営のためにどう使うかを考えてきた代表的な研究者の一人が、ロバート・N・アンソニー(Robert N. Anthony)です。アンソニーは、会計情報を単に収集・集計するだけでなく、経営者が計画を立て、その実行状況を確かめ、必要な行動につなげるために利用することを重視しました。



Robert N. Anthony

大切なのは、数字を確認して終わることではありません。「なぜ、この結果になったのか」「この状態で次の投資ができるのか」と問い直すことです。財務諸表が示しているのは、基本的には、これまでの経営活動の結果です。しかし、その結果を読み解くことは、これから何をするかを考える出発点になります。

過去の数字を見るのは、過去を振り返るためだけではありません。そこから会社の現在地を知り、将来の判断につなげる。社長にとって会計を学ぶ意味の一つは、ここにあります。

利益が出ていても、支払いができるとは限らない

第3章では、「売れたこと」と「お金が入ること」は違うと考えました。第4章では、その違いを、会社全体の損益と資金の関係として捉えます。

商品を販売しても代金の回収は後になることがあり、一方で仕入代金や給与の支払期日は訪れます。会計上の利益と、実際のお金の動きは同じではありません。売上が計上されても代金をまだ回収していなければ、そのお金を支払いに使うことはできません。

企業価値を将来のキャッシュ・フローから捉える株主価値アプローチで知られるアルフレッド・ラパポート(Alfred Rappaport)は、短期的な会計上の利益だけでなく、将来生み出されるキャッシュ・フローに目を向けて企業の価値を考えることの重要性を論じました。この視点に立つと、「利益が出ているか」と「お金がどのように生み出され、使われているか」は、区別して見る必要があることが分かります。



Alfred Rappaport

公式テキストが、損益計算書とともに資金繰り表やキャッシュ・フロー計算書を取り上げる理由もここにあります。社長には「どれだけ利益が出るか」と「必要なときに使えるお金があるか」の両方を見ることが求められます。会社の持続的な成長を考えるうえで、この二つの視点を切り離すことはできません。

経営計画は、願望を数字に置き換えたものではない

売上を増やしたい。利益を高めたい。新しい商品を育てたい。こうした願いは経営の出発点になります。しかし、目標額を書くだけでは、その実現に向けて何を変えるべきかは分かりません。

公式テキストでは、現状のまま推移した場合の将来と、目指す将来との違い(ギャップ)を捉え、経営計画につなげています。ここで重要なのは、「何もしなくても今の状態が続く」とは限らないことです。顧客の需要、競争、人件費などが変われば、同じ仕事を続けていても結果は変わります。

だからこそ、計画(Plan)を、具体的な売上や費用、利益、そして資金の見通しへ結びつける必要があります。どのような行動によって目標に近づくのか(Do)、実績との差を確かめ(Check)、必要に応じて手を打つ(Act)。経営計画とは、一度つくって終わるものではなく、現実との違いを確かめながら、行動を修正していくための道具なのです。

こうした数字の使い方を考える手がかりになるのが、ロバート・シモンズ(Robert Simons)のマネジメント・コントロール論です。シモンズは、予算や業績指標を、計画からのずれを把握するためだけでなく、経営者が重要な変化に注意を向け、組織内の対話を促すためにも使えることを示しました。



Robert Simons

売上が想定を下回ったとき、販売の取組みに問題があるのか、当初の見通しに無理があったのかで、対応は変わります。過ぎた月の結果を知るだけでなく、その差異がなぜ生じたのかを考え、今後の利益や資金の見通し(着地予想)を更新する。数字を使って、手が打てるうちに判断することこそが、計画を生かすということです。

資金を提供する人に、会社の将来を説明できるか

会社が事業を続け、成長するためには、自社で生み出すお金だけでなく、銀行からの借入れや株主からの出資が必要になることもあります。そのとき、資金を提供する側は何を知りたいのでしょうか。

ここで重要になるのが、会社の経営者と、外部から資金を提供する人とでは、会社について持っている情報が同じではないということです。社長は、会社の強みも弱みも、現在抱えている問題も、これから何をしようとしているかもよく知っています。しかし、銀行や投資家が同じ情報を持っているとは限りません。

ノーベル賞を受賞した経済学者マイケル・スペンス(A. Michael Spence)は、こうした「情報の非対称性」が存在する市場で、より多くの情報を持つ側が、情報の少ない相手にどのように情報を伝えるのかを「シグナリング」という考え方から研究しました。



A. Michael Spence

この考え方を資金調達に引き寄せてみると、会社が外部の資金提供者に何を伝える必要があるのかが見えてきます。現在の経営状態はどうか。何のために資金を使うのか。それによってどのような成果を目指すのか。そして、どのようなリスクがあるのか。社長の人柄や熱意も大切ですが、それだけで将来の返済や事業の成果を判断してもらうことはできません。根拠となる数字と、その数字の前提となる事業の考え方を説明する必要があります。

公式テキストで会計と金融が一つの章に置かれていることも、この視点から考えることができます。会社の活動を数字で捉えることは、自社のためだけではなく、資金を提供する人に会社の現状と将来を説明することにもつながります。計画の表を専門家に作ってもらうことはできても、その前提や実現に向けた行動を自らの言葉で説明することは、社長自身の重要な仕事なのです。

企業の価値は、いま持っている財産だけでは決まらない

会社の価値を考えるとき、土地や設備、預金など、現在の財産に目が向くかもしれません。しかし、優れた技術、人材、顧客との関係なども、将来の事業を支える力になります。財務諸表の数値だけで、会社の価値のすべてが分かるわけではありません。

企業価値評価の研究で知られるアスワス・ダモダラン(Aswath Damodaran)は、企業や資産の価値を考えるうえで、将来生み出されるキャッシュ・フローと、その成長やリスクに目を向けることの重要性を示しています。いま会社が何を持っているかだけでなく、それらを使って将来どれだけのキャッシュ・フローを生み出せるのかが、企業の価値を考えるうえで重要になります。



Aswath Damodaran

公式テキストも、将来のキャッシュ・フローとリスクに着目する視点を取り上げています。評価方法や計算はテキストに任せますが、ここでは「将来どれだけ稼ぐ力があるか」と「その見通しにはどのような不確実性があるか」の両方が問われることを意識してみてください。

このように考えると、第1章の戦略、第2章の人材育成、第3章のリスク管理も、企業価値と無関係ではありません。優れた戦略をつくること、人を育てること、事業を脅かすリスクに備えることは、いずれも将来のキャッシュ・フローとその不確実性に関わっています。

企業価値は、会社を売買するときだけの問題ではありません。今日の設備投資、人材育成、新商品開発、リスクへの備えといった一つひとつの経営判断が、会社の将来の稼ぐ力をどう変えるのかを考える問いでもあるのです。

お金の数字だけでは、見えないこともある

数字で経営を捉えるといっても、金額だけを見ればよいわけではありません。売上や費用の背後には、販売数量、働く人の行動、そして資源の使用量という「物量」が存在します。それらを見なければ、結果が変わった理由や、具体的に改善すべき点を見抜くことはできません。

その一つの例が、マテリアルフローコスト会計(MFCA)です。MFCAは、ドイツにおける企業の環境管理の取組みから発展し、資源やエネルギーの流れを物量と金額の両面から捉える方法として発展してきました。その研究と普及に重要な役割を果たした研究者の一人が、ベルント・ワグナー(Bernd Wagner)です。



Bernd Wagner

MFCAの特徴は、製品になった部分だけでなく、廃棄物やロスとなった部分にも目を向けるところにあります。材料がどこから入り、どの工程を通り、どれだけが製品となり、どれだけがロスになったのか。こうした物量の流れを金額と結びつけることで、金額だけを見ていたときには気づきにくかった改善の可能性が見えてきます。

第4章の最後には、CO2削減を題材に、物量管理と管理会計の活用が取り上げられています。エネルギーの使用量や排出量を捉え、改善の取組みを費用や効果と結びつけて考える視点です。これは、会計を経営判断に役立てる範囲が、環境への対応にも広がっていることを示しています。

「環境に配慮する」という理念も、それだけでは具体的な経営改善にはなりません。何をどれだけ使い、何が変わり、その結果として費用や環境負荷がどう変化したのか。金額とその背後にある実態の両方を見ることで、理念や戦略を具体的な改善につなげることができるのです。

第4章の「理解への見取り図」

第4章の知識を、経営者が考えるべき問いとして整理すると、次のようなつながりが見えてきます。

会社はいま、どのような状態にあるのか
(財務諸表・財務指標)
↓
利益とお金の動きは、どう違うのか
(損益・キャッシュ・フロー)
↓
目指す将来を、どう実現するのか
(経営計画・利益と資金の見通し)
↓
実績を踏まえて、何を変えるのか
(予実管理・着地予想・PDCA)
↓
必要な資金と、その使い道を説明できるか
(資金調達・金融)
↓
将来、どれだけの価値を生み出せるのか
(将来キャッシュ・フロー・企業価値)
↓
数字の背後にある活動を改善できるか
(物量管理・管理会計)

この「見取り図」を頭の片隅に置きながら、改めて公式テキストを読んでみてください。財務諸表、資金繰り、経営計画、企業価値、CO2削減など、別々に見えていた知識が、「会社の現状と将来を捉え、根拠をもって判断する」という一つの経営問題の中でつながって見えてくるのではないでしょうか。

社長を目指す人に考えてほしいこと

第4章の表や計算を見て、難しいと感じるかもしれません。しかし、そこで問われているのは、計算の速さではありません。会社が何によって利益を生み、いつ資金が必要になり、今後も支払いを続けられるのかを理解することです。

数字だけで経営のすべてが決まるわけではありません。また、将来の予測が必ず当たるわけでもありません。それでも、根拠をもって見通しを立て、現実との違いを確かめ、判断を修正することはできます。

数字をつくる仕事を任せることと、数字が示す会社の状態や将来を理解することは違います。公式テキスト第4章を、ぜひ、自分の経営判断を数字で確かめ、説明できるようになるために読んでみてください。